トラックの運転席から見た、春の一日。
― 家族と走る、一日の記録 ―
気象庁の発表で、長野市も桜の開花宣言。
ラジオを、なんとなく聴く。
桜前線は北上中。
朝の小休憩で立ち寄るパーキングエリア。
ほぼ毎回、仕事の日には
必ず家族に電話をかける。
妻との約束が、
いつのまにか家族との約束になっている。
任務みたいなものだ。
子どもたちと話して、
妻に状況や予定を伝える。
それが、いつもの流れ。
今朝も、いつも通り。
長男は、学校へ行く支度をしながら、
何かを探している。
兄妹が、かわるがわる画面を覗き込んでくる。
画面越しに、調子を確かめる。
大丈夫か。
よし、顔晴れ。
色気付いてきた娘たちの髪を、
妻が、あれこれ頼まれながら整えている。
桜も、色付き始めている。
そんな気がした。
子どもたちの質問に、
ひとつひとつ答える。
「進級おめでとう」
「ありがとう」
「行ってきます」
「いってらっしゃい」

毎日続く職務の中で、
くたびれた身体に、
家族の言葉と笑顔が効く。
俺はいつでも、お前らの味方だ。
「ありがとう」
気持ちを引き締める。
シートベルトを締める。
絶対帰るぞと、手に汗。
ハンドルを握る。

現地到着。
伝票整理。
下車確認。
急かされる、限られた時間。
荷卸しや荷造り、荷積み前の合間に、携帯を見る。
一通の報せに、全部持っていかれる。
既読スルーは、絶対にしない。
「今日は一人で行くと、登校しました!」
長男が2年生になって、
少しずつ変わってきたみたい。
頼もしくなりました。
と、妻から。
後ろ姿、見たかったな。
知らせてくれてありがとう。
ちょっと寂しいけど、嬉しい。
帰ったら、褒美をやろう。
会社のルール。
高速は90キロ以下、厳守。
長野へ向けて、舵を取る。
トラックで走っていると、
目に飛び込む景色は、
季節ごと、流れていく。
四季の違いを感じながら働ける。
これも、運転手の特権であり、醍醐味。
間と巡り合わせ。
懐事情さえ許せば、
美味いものにもありつけると思う。
ただ、どこへ行っても危険が伴う。
今日から春の交通安全週間。
乾いた目に、目薬が効く。
一息淹れる。
「黒酢で活力」
暖かい日が続く中、
雨や風、寒さに耐えて咲いた桜。
桜満開。
花より団子の、そのまた逆。
玉こんにゃくに辛子。
後頭部に直撃。突き刺さる。
眠気覚ましの、会心の一撃。
頬ばる握り飯。
中身は梅干し。
顔面に力んで、目が開かない。
野暮用を思い出し、妻へ電話。
なぜか長男が出た。
「入学式でオナラしてさ、みんなに笑われた」
笑って過ごす、大切な時間。
まだ咲き誇っていない場所から、
散りはじめた花びら。
移り行く景色。
通りすぎる速さ。
子どもたちの成長を、重ねて見る。

帰路に着く登坂車線。
願う気持ちは登り坂。
明日の天気は、下り坂。
それでも、
未来は明るい気がする。


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