※善光寺焼を探していた頃の話です。
ある日、
何気なく立ち寄ったリサイクルショップで、
ひとつの箱が目に入った。
木箱には、
「おふく盃」と書かれていた。
そして、その場にあった盃には、
「善光寺参拝記念」と描かれていた。
値段は、たしか1000円。
はっきりとは覚えていないが、
その箱と一緒に並んでいた光景だけは、
なぜか強く印象に残っている。
御開帳の時期だったこともあり、
店の演出だったのか、
それとも自分の思い込みだったのかは分からない。
ただ――
その場で感じたものは、確かだった。

そのあとで、
手に取ったのが、あの盃だった。
器には、
「善光寺参拝記念」と書かれていた。
鬼の面と、
おたふくの面。
いわゆる、
土産物として作られたものだと思う。
ただ――
その箱の中に入っていたものは、
それとは違っていた。
中に入っていた紙には、
「善光寺焼」と書かれていた。
そして、
青沼妙慧という名前。
祈りとして作られた焼き物。
善光寺に関わる、本物の焼き物だった。
最初に目に入ったのは、
ただの土産物だったのかもしれない。
でも――
その奥にあったものは、
まったく別の世界だった。
鬼の面と、
おたふくの面。
表と裏のように、
ふたつの顔が向かい合っていた。

外に見える顔と、内にある顔。
気づけば、手に取っていた。
そして、
気づけば――
それを持って店を出ていた。
お金を払ったのかどうか、
今でもはっきり覚えていない。
ただ一つだけ、確かなことがある。
あのとき、
何かに引き寄せられるようにして、
この盃と出会ったということだけは、
はっきり覚えている。


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