【御開帳と善光寺焼シリーズ|本編】
善光寺御開帳の年、
“本物”と出会った記録。
▶ はじめに|すべては一冊の本から始まった
▶ 第一話|出会いは、突然だった①
▶ 第二話|本物と出会う時間②
▶ 第三話|余韻の中で見えたもの③
▶ 第四話|暮らしの中で使うということ④
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※善光寺焼を探し始めた頃の話です。

子供の小学校のそばで、
通りかかることもあった。
気になって、小布施の骨董屋を訪ねた。
古美術 啐啄堂
小さな店だった。
初めて入った時、
何があるのかも分からなかった。
ただ、気になるものだけを見ていた。
幼い頃の記憶が、
どこかで重なっていたのかもしれない。
ふと、
善光寺焼はありますか、と聞いてみた。
店主は、少し間を置いてから言った。
「今度来た時までに、探しておいてやるよ。
昔、長野の横文から仲間と買い付けてあったはずなんだけどな」
その言葉が、なぜか残った。
それから、何度か店に通うようになった。
行くたびに、
何かを見て、
何かを手に取って、
気づけば、器を買っていた。
中野の土雛や猪口、茶入、
八角形の小皿など。
試されていたのか、
からかわれていたのか、
今でも分からない。
店内は所狭しと物が並び、
奥と呼べるような場所はなかった。

棚の中や、真田紐で結ばれた小包。
小包の多くは空だったが、
中から何かが出てくると、
店主は「おっ」と声を漏らしたり、
「懐かしいな」と呟いたりした。
時には、じっと見つめたまま、
動かなくなることもあった。
その様子に付き合いながら、
驚いたり、頷いたり、
ときには一緒に笑ったりしていた。
今思えば、
あの時間も、
大事なものだったのかもしれない。
ある日、
「その辺、一緒に探してみろ」と言われた。
並べられた骨董を崩さないよう、
気をつけながら手を伸ばした。
埃をかぶった棚の中に、
どこか気になる器があった。
その中に、
どこか気になる器があった。
「これですか?」
そう声をかけると、
店主は少し驚いた顔をして言った。
「それだ。よく見つけた。それだけだ。」
ビニール紐で束ねられた五客。

絵は描かれていなかった。
けれど、
それまでのやり取りが、
ひとつに繋がった気がした。
——これが、善光寺焼なのかもしれない。
そう思った。
その後、店主の姿を見かけなくなった。
たまに通ることがあったが、
シャッターは閉まったままだった。
「今度来た時までに、探しておいてやるよ」
あの言葉が、
最後の会話になっていたのかもしれない。

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