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願い事より先に、叶っていた夏の景色

自宅のウッドデッキで七夕飾りを見つめる子ども達 3児の父

立秋とは名ばかりで、
夕立を待ちたくなるような暑さが続いていた。

窓を閉め切った居間は、
熱が籠もっていて暑苦しい。

子ども達を寝かせ、
ブログを書き終えて寝室へ戻ると、
もう俺の寝る場所は無かった。

仕方なく、
ウッドデッキへ出る。

夏の夜空に浮かぶ月
夏の夜に浮かんでいた月。

虫の鳴き声が聞こえて、
少しだけ涼しい。

煙草を咥えたまま、
空を見上げる。

星が綺麗だ。

きっと、
明日も晴れるだろう。

南の空には、
明るく光った月が、
静かに浮かんでいる。

反対側の空には、
北斗七星が、
ぼんやり浮かんでいた。

酒が呑みたくなった。

冷蔵庫から取り出したのは、
小布施の高沢酒造が手がける
「豊賀 天女のしずく」。

小布施でも、
どこでも買える酒じゃない。

限られた特約店か、
蔵元でしか見かけない事も多い。

華やかな香り。

少しだけ舌に残る、
しぼりたて特有のガス感。

甘いだけじゃなく、
ちゃんと芯がある。

暑さで火照った身体に、
妙に沁みた。

影絵のように見える、雁田山。

かりたやまの上に浮かぶ月と星空
静かな夜の、かりたやまに月が浮かんでいた。

その山の稜線に、
隠れるように、
星が消えていく――夢の中。

酒を呑みながら、
夜風に当たっていると、
いつの間にか寝落ちしていた。

ふと目を覚まし、

気怠い身体のまま、
居間へ戻る。

閉め切った部屋の熱気は、
相変わらずだった。

朝5時頃。

目を開けると、
窓の向こうから歌声が聞こえてきた。

七夕飾りを持って歌う兄妹の夏の朝
朝から、七夕の歌が響いていた

長男と長女だった。

まだ少し眠そうな顔のまま、
七夕の歌を何度も歌っている。

笹の葉さらさら――

うろ覚えの歌詞なのに、
なぜか妙に楽しそうだった。

保育園で作った七夕飾りを、
得意気に持っている兄妹。

よく見ると、
短冊に願い事が書いてある。

七夕の短冊に書かれた兄妹の願い事
お友達や先生と、仲良くたくさん遊べますように。

……絶対、
お前達の字じゃないだろ(笑)

そう思いながら、
煙草に火を点けて、
朝曇りの空を見上げた。

今日は、
長野県知事選挙の投票日だった。

町の体育館へ向かい、
候補者の名前を書く。

すると隣で、
長男が不思議そうに聞いてきた。

「パパ、お願い事なんて書いたの?」

たしかに、
あの細長い投票用紙も、
見方によっては“願い事”なのかもしれない。

子どもの目線って、
時々、
妙に核心を突いてくる。

そのまま、長男を連れて
妻に頼まれた買い出しへ。

どうせなら、
あいつら喜ぶだろうな――
と、
素麺と花火を買って帰る。

俺の帰宅と同じに、
交代で、
今度は妻が子ども達を連れて出掛けていく。

帰ってから、
素麺を茹でておいた。

西陽の照り返しが、
まだ暑い夕方。

妻の車が帰って来る。

勢いよく飛び出して来た長男。

ドアの縁にしがみつきながら、
懸命に降りようとしている長女。

「早く降ろしてくれ」
と、
言わんばかりに泣いている次女。

気づけば、
畑の水やりをしながら、
子ども達に付き合っていた。

ダンゴムシを集めたり。

色んな形の石を拾ったり。

アリの巣を見つけたり。

スコップで穴を掘って、
バケツに土を詰めたり。

ジョウロで水遊びしたり。

泥だらけになって笑っている。

気づけば、
自分も一緒になって遊んでいた。

泥だらけのまま、
みんなで風呂へ入る。

子ども達を、
一人ひとり洗っていく。

風呂上がり。

外へ出て一服。

少しだけ、
涼しい風が吹いていた。

夕飯は、
先ほど茹でておいた素麺。

夏の夕飯に食べた素麺
夏の夜の、素麺。

妻が支度してくれていた常備菜。

茄子の焼き浸し。

ちくわの磯辺揚げ。

長男は、
妻の横で卵焼きを手伝っている。

昨晩、
呑みきれずに残っていた一升瓶の酒。

そんな夏の晩飯だった。

「花火やるか?」

その一言で、
長男が一気にはしゃぎ出す。

その真似をする長女。

次女は、
そんな兄妹の後ろを、
危なっかしく付いて歩いている。

昼間の暑さが、
まだ少し残っていた。

パチパチと鳴る花火。

火薬の匂い。

子ども達の笑い声。

夏の夜に花火を楽しむ兄妹
火薬の匂いと、子ども達の笑い声。

なんでもない夏の夜なのに、
妙に記憶に残りそうな空気だった。

調子に乗った長男が、
ふざけながら花火を振り回す。

その横で、
長女も真似をする。

次の瞬間――

「あっつ!!」

妻の声。

驚いて、
長女が固まる。

泣き出しそうな顔。

怒っている長男。

状況が分からず、
ただ空気だけ感じている次女。

次女を背負ったまま、
妻は二人の間に入った。

「危ないから、
ちゃんと見てやるんだよ」

そう言いながら、
長男の手を見て、
長女の顔を見る。

長女は、
半泣きのまま、
小さな声で言った。

「……ごめんね」

さっきまで泣きそうだったのに、
少しすると、
また兄妹で笑っている。

煙草を吹かし、
夜空を見上げる。

吐いた煙が、
天の川みたいに、
ゆっくり流れていく。

織姫と彦星。

その間を、
笑いながら走り回る兄妹。

そういえば――

長女の名前は、
織(しき)だったな。

手元には、
「天女のしずく」。

ありがとうと呟いた。

酒がうまい。

花火の光に照らされながら、
走り回る後ろ姿を見ていたら、
ふと思った。

――遠い昔、
夢の中で見た景色みたいだな、と。

たぶん、
餓鬼の頃の自分が、
欲しかった景色なんだと思う。きっと…


歩きながら、
少しずつ繋がっていった記録です。

流れ着いた町で、生き直すことにした話
3児の父になって、やっと分かったこと
若い頃の自分に、今なら言えること
御開帳と善光寺焼シリーズ
空気シリーズ

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