さぁさぁ、お立ち会い!
用がなけりゃあ寄ってきな、
お暇だったら見てきな、
見てって損はさせねぇよ!
さあさあ、
今年もお花市が始まってるよ!
8月12日、小布施の夏でございます。
毎年この日、
中町の桜塚観音を中心に開かれるお花市。

お盆を前に花が並び、
露店が並び、
地口灯籠に明かりがともる。
ギヤマン祭りも一緒になって、
子どもは浮かれ、
大人も浮かれる。
そんな今夜は、
私にとっちゃあ50歳最後の夜。
明日になれば51歳。
だからって、
しみじみ半世紀を振り返る――
なんて暇はございません。
保育園から帰ってきた子どもたちを連れて、
西野家そろって、お花市へ。
ところが一人、
とっくに祭りが始まっている男がおりました。
長男、穣。
今日は祭りだと前もって聞いていたもんだから、
帰ってくるなり一張羅に着替えて、
準備万端。

まだ家も出てねぇってのに、
気持ちはもう祭りのど真ん中。
その横で、
織と藍も浴衣に着替えて、
さあ出発。

……のはずが、
家の前からなかなか進まない。
塀に登って、
つまずいて転んで泣いて、
しまいにゃ姉妹で抱きついて。
祭りはまだ始まってもいないのに、
西野家、
すでにひと騒ぎである。
ようやく家を出たと思ったら、
道中でもこの調子。

祭り会場まで、
まっすぐ歩くだけってのが、
どうにもできねぇ西野家でございます。
よし。
そこまで騒いだんなら、
今度こそ行こうじゃねぇか。
50歳最後の夜。
花を買って、
祭りを楽しんで、
家族そろって帰ってくる。

――はずだった。
まさかこのあと父ちゃん一人、
ステージ横の席を守りながら、
待つ、待つ、待つ。
そんな夜になるとも知らずに――。
さあ、西野家のお花市。
始まり、始まり。
ギヤマン通りへ入ってみりゃあ、
さあ大変。

右からいい匂い。
左からまたいい匂い。
法被が行けば、
提灯揺れて、
露店から威勢のいい声が飛んでくる。
お面を見つけりゃ止まる。
友達見つけりゃ、もういねぇ。
食い物見つけりゃ――
父ちゃんも止まる。
人のことは言えません。

桜塚観音の道を挟んだ向かいには、
キッチンカーがずらり。
ギヤマン通りの入口、
桜井甘精堂 泉石亭、桜井甘精堂 本店のあたりから、
おぶせミュージアムまで、
ずずいっと祭りの通りでございます。
泉石亭は、
父ちゃんも何度かお邪魔して、
酒をいただくこともしばしば。
通りを歩けば、
松葉屋本店のレンガ煙突が見える。
その先、
桜塚観音には、
少しばかり列ができ始めている。

花が並び、
露店が並び、
人が行き交い、
向こうからは音楽まで聞こえてくる。
いつものギヤマン通りが、
今夜ばかりは、
一本まるごと、お花市。
祭りをひと通りぶらついたところで、
大阪焼きを2パック、四枚。

これを抱えて、
そろそろ一服と向かったのが、
おぶせミュージアムの駐車場。
小布施の物語ボックス、第九話がある場所です。
ステージに向かって左手、
空いていたテーブル席に陣取ります。
さあ、食おう。

――と思ったのも束の間。
穣がいねぇ。
織がいねぇ。
藍もいねぇ。
お母さん、
追う。
探す。
連れ戻す。
と思ったら、
また誰かいねぇ。
おい、祭りってのは忙しいねぇ。
そんなこんなで、
いつの間にやら、
席に残った父ちゃん一人。
交代で席番するって話は、
どこ行った。
まあいい。
ここがまた、
妙に居心地がいい。
ステージは目の前。

そして駐車場をちょいと出りゃあ、
小布施 鈴花の出店が、すぐそこ。
つぶ貝。
卵焼き。
唐揚げ。
肉巻きおにぎり。
実は父ちゃん、
鈴花の料理をいただくのは、
これが人生で初めてございやす。
さて、どれからいただこうか――
なんて悠長なこと言ってる場合じゃなかった。
卵焼きを買えば、
藍が持っていく。
唐揚げを買えば、
織が持っていく。
そして問題は、
肉巻きドック。
一本買って、
さあ食おうとしたところで――
藍に取られる。
仕方ねぇ。
もう一本買ってくる。
今度こそと思ったら――
織に取られる。
おい。
また買いに行く。
三度目の正直。
今度こそ俺のもんだと思ったら――
穣に取られる。
お前ら、父ちゃんにも食わせろ。
一本目、藍。
二本目、織。
三本目、穣。

そして四本目。
ようやく、
俺の番。
ひと口食べて――
……うまい。
いや、
めちゃくちゃうまい。
こりゃ取られるわ。
でも待て。
お母さんがまだ食ってねぇ。
もう一本。
これで五本。
……だったはずが、
そのあとまたおかわり。
結局、
何本買ったんだって話でございます。
そして、つぶ貝。
これに食いついたのが穣だった。
楊枝を持って、
殻から身を出そうと懸命にほじくっている。
「これ食べれるの?」
食べてみ。
うまいから。
半信半疑で口へ入れる。
もぐもぐ。
……。
うまかったらしい。
「もう一回買ってくる!」
金を渡すと、
自分で鈴花へ走っていった。
戻ってくるなり、
ほじくる。
食う。
ほじくる。
食う。
がむしゃらに食い尽くす。
おい。
父ちゃんにも一個くらい残しとけ。
結局また買う。
つぶ貝もおかわり。
卵焼きもおかわり。
唐揚げもおかわり。
肉巻ドックなんざ、
結局何本買ったんだ。
初めての鈴花。
西野家、見事にハマりました。

そんな父ちゃんにも、
一度だけ自由時間がやってきた。
ちょいと祭りをぶらつけば、
穣の友達のお父さんから、
「ジョーくんのお父さん、ビール一杯いかがですか」
そりゃあ、
いただきましょう。
生ビールを一杯買って、
席へ戻る。
はい。
自由時間、終了。
待てど暮らせど、
交代は来ねぇ。
気がつけば、
座っているのは俺一人。
まあ、
これも悪くない。
ステージの音を肴に、
酒をちびり。
祭りの夜を、
一人のんびり眺めておりました。

すると――
「深呼吸くらぶです」
と、ステージに現れた四人。
ほう。
どんなもんかと思っていたら、
流れてきたのは、
まさかの――
ラジオ体操。
おいおい。
ここへ来てラジオ体操かい。
何が始まるんだと思った、
その直後。
空気が、
すーっと変わった。

さっきまでガチャガチャしていた会場を、
そのまま丸ごと包み込むように、
ゆったり。
まったり。
ほっこり。
音が、
祭りの夜に溶けていく。
深呼吸くらぶ。
なるほど。
名前の通りじゃねぇか。
四席あって、
俺一人。
酒もある。
なら、
まあいいか。
椅子に腰を沈め、
酒をちびり。
夜風の中、
音楽を聴いているうちに、

さっきまでの
「待つ、待つ、待つ」が、
いつの間にやら、
「聴く、飲む、浸る」。
なんとも心地いい。
50歳最後の夜。
席番奉行も、
悪かぁねぇな。
そして、その夜。
今度は子どもたちが、
ステージの前を指さした。
穣に、織に、藍。
そこへ穣の学校の友達も加わって、
「前で踊りたい!」
いいじゃねぇか。
踊ってこい、踊ってこい。
織は、
光るペンライトみてぇなもんを持っている。
なら父ちゃんも付き合おう。
織を連れて、
ステージの真ん前へ。

音が鳴り出しゃ、
子どもたちは大はしゃぎ。
飛ぶ。
跳ねる。
踊る。
光る棒を振って、
まあ楽しそうなこと。
そして、
そのとき演奏していたのが――
Albatrus。

ふと穣を見る。
さっきまでノリノリだった男が、
動かねぇ。
何を見てるんだと思ったら、
ドラム。
じーっと見てる。
もう、
釘付け。
「お父さん、ドラムの人かっこいい」
「俺、あれやりたい」
「これ、すげぇかっこいい」
ほう。
踊りに来たと思ったら、
今度はドラムに捕まったか。
演奏が終わって、
メンバーがステージを降りても、
穣だけは終わらねぇ。
物販へ向かったメンバーのすぐそば。

ほかのお客さんが並んでいる横で、
じーっと見てる。
おい。
近ぇな。
すると、
「お父さん、CD買って」
CD?
「お前、CD買ったって聴けねぇぞ」
即答。
「お母さんの車で聴く」
そこまで言うなら、
よっぽど気に入ったんでしょう。
自分の持っているお金を数える穣。
ところが、
ちょいと足りねぇ。
「あと二枚足んない」
いい。
足りねぇ分は父ちゃんが出してやるよ。
自分のお金に、
父ちゃんが足りない分だけ足して、
CDを一枚。
あれだけ見つめていたドラムの方とは、
握手と記念撮影。

メンバーのみなさんからは、
サインもいただきました。
これが穣、
人生で初めて自分で買ったCD。
祭りに来て、
友達と踊って、
ドラムを見たら動けなくなって、
「かっこいい」
「俺もやりたい」
そして最後には、
自分の財布を開いた。
50歳最後の夜。

穣はひとつ、
「かっこいい」を見つけた。
さてさて。
祭りもそろそろ、おしまい。
最後は、
桜塚観音。
家族そろって手を合わせ、
お花をいただく。

そして、
お盆にお供えする花も買いました。
花を抱えて、
あらかじめお母さんが
途中の駐車場に置いといた車まで、
古陶磁コレクション 了庵の前を横切って、
みんなで歩く。
車へ乗り込んだら、
穣はもう待ちきれない。
言った通り、
お母さんの車で、
買ったばかりのCDをさっそく聴いている。
そして一夜明けて――
父ちゃん、
本日51歳。
50歳最後の夜。
悪かぁなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
これからも、私が見てきたこと、感じたこと。
そして、生きてきた証を言葉として残していきます。
もし、何か一つでも心に残るものがあれば、
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このブログは、
迷いながらも歩き続ける、
私の「みちしるべ」です。
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この続きに、こんな記事も。
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▶︎ 人には歴史がある
▶︎ あの日に帰る


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