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家族で歩く小布施旅|物語ボックス全10話

長野電鉄小布施駅の駅舎内から見た駅前風景と改札正面の鳳凰図 古き良き暮らし

小布施駅に降り立つ

長野電鉄小布施駅を降りると、

改札正面には鳳凰図が迎えてくれる。

今日は、

子どもたちと一緒に、

町に点在する十の物語ボックスを巡る。

「全部読むんでしょ?」

穣が笑う。

「しーちゃんも読む!」

織が負けじと手を挙げる。

藍は、

「いっぱい歩くー!」

と元気いっぱいだ。

小布施駅から岩松院まで約5.5km。

紙芝居をひとつひとつ読みながら、

家族で、

小布施をゆっくり歩いてみます。


───

駅を出て最初に迎えてくれる物語。

小布施町の物語ボックス「狐どんの道案内」と投句箱がある広場
小布施駅近くにある物語ボックス「狐どんの道案内」と投句箱。ここから小布施の物語ボックス巡りが始まります。

石積みの休憩スペースと投句箱があり、

旅の始まりに立ち寄るには、

ちょうどいい処。

旅の思い出に一句、

投じてみてはいかがでしょうか。

───

「お父さん、読んで。」

紙芝居を読む役は、

やっぱり私。

第一話 狐どんの道案内

小布施町の物語ボックス「狐どんの道案内」の前でポーズをとる子どもたち
小布施駅近くにある物語ボックス「狐どんの道案内」。旅の始まりを記念して、姉妹で一枚撮影しました。

物語は、

お酒を飲み過ぎた実五郎と、

一匹のきつねとの不思議な縁を描いた、

小布施に伝わる昔話です。

読み終えると、

穣が笑いながら言った。

「これ、お父さんの話じゃん。」

「え? なんで?」

「酒飲んでるでしょ。」

「千曲川でしょ。」

「お父さん、この前落ちたでしょ。」

「だから、絶対お父さんじゃん。」

思わず笑ってしまった。

確かに、

反論の余地はない。

───

若い頃、

私は千曲川へよく通った。

ブラックバスを追いかけ、

中国人の友人と知り合い、

ナマズやコイ、

うなぎをごちそうになったこともある。

生姜や香草が効いた料理は、

川魚特有の臭みが旨みに変わり、

今でも忘れられない味。

───

それから年月が流れ、

穣が妻のお腹にいた頃。

数日前に仕掛けておいた、

うなぎの筒を見に行った。

酒を飲む

うなぎは坊主

足すべる

見事に落ちた

真っ逆さまに

気づけば私は、

千曲川の中だった。

うなぎを捕りに行ったはずが、

捕れたのは、

びしょ濡れのお父さん一匹。

───

小布施へ移り住んだ今。

きれいに整備された河川敷。

もうすぐ豊野の花火大会。

若い頃は、

川へ入り遊んでいた。

今では、

その景色を眺めている。

同じ千曲川なのに、

自分もずいぶん変わった。

───

そんなことを思い出していると、

穣が勝手に紙芝居を締めくくった。

……

「お父さん

うなぎを取りに

おしまい」

……

一本取られた。

「おいおい……

ちゃっかり俳句になってるじゃん。」

───

さあ、

次の物語へ行ってみましょう。

駅を背にして、

まっすぐ歩きます。

八十二銀行を過ぎると、

信号のない十字路。

その角には、

空へ羽ばたくブロンズ像。

そのすぐ隣に、

次の紙芝居がありました。

───

「お父さん、

次はこれ読んで。」

「はい。」

また私の出番です。

───

第二話 栗と神さま

小布施町の物語ボックス「栗と神さま」
小布施町にある物語ボックス「栗と神さま」。栗の里・小布施に伝わる昔話が描かれています。

物語は、

神様が馬に乗って押羽の里を訪れた時のお話です。

道中で栗が神様の目に当たってしまい、

それ以来、

押羽では栗を植えなくなったという、

言い伝えが残されています。

───

読み終えると、

穣がすぐに口を開きます。

「やばっ!

神様が人殺しちゃったの?」

その横で、

織がぽつり。

「だから、

ブドウの木が多いんじゃないの?」

すると、

藍が自分の指を見せながら言いました。

「藍ちゃんねー、

ここにねー、

栗のトゲ刺さったんだよ。」

すると、

穣が驚いた顔で、

「えっ!

藍ちゃん刺さったの?」

織が答えます。

「ずっと前に、

保育園からお母さんと帰るとき、

栗を拾ったんだよね。」

すると穣が、

真顔でひと言。

「藍ちゃん、

神様に殺されちゃうよ。」

藍は少しムッとした顔で、

「穣くん、キライ。」

藍は私の手をぎゅっと握り、

背中へ隠れるようにして、

いじけてしまいました。

「痛かったね。

もう大丈夫だ。

次に行こう。」

───

駅を背にして、

信号のない十字路を右へ。

皇大神社の前を通ると、

穣が毎日通う、

栗ヶ丘小学校が見えてきました。

来年からは、

織もこの学校へ通います。

「織も、

もう一年生か。」

そんな話をしながら歩いていると、

学校の正門手前に、

次の物語ボックスがありました。

───

「お父さん、

次はこれ。」

「はい。」

そう言うと、

穣が紙芝居の前へ立ちました。

少し得意そうな顔で、

「これは、僕が読む。」

───

第三話 子どもの好きな如来さま

小布施町の物語ボックス「子どもの好きな如来さま」を見る子どもたち
小布施小学校近くにある物語ボックス「子どもの好きな如来さま」。子どもたちも興味津々で紙芝居をのぞき込んでいました。

自分の通う小学校だからでしょうか。

穣は迷わず前へ立ちました。

漢字には、

ふりがなが振ってあります。

穣は、

詰まりながらも、

ゆっくり読み進めていきました。

物語は、

福原の吉田家にお祀りされていた、

大日如来さまのお話です。

子どもたちに親しまれ、

いつしか、

「子どもの好きな如来さま」と

呼ばれるようになった、

その由来が語り継がれています。

途中で何度もつかえながらも、

最後まで読み終えると、

少し照れくさそうに、

まるで授業中のように、

「どうでしたか?」

すると、

藍は首をかしげた。

「お地蔵さんは、

お外が好きなんじゃないの?」

織がすぐに答えた。

「違うよ。

お地蔵さんは、

子どもが好きなの。」

穣は、

少し照れくさそうに言った。

「上手だった?」

「読むの、上手くなったな。」

そう言うと、

穣は、

「よっしゃー!

じゃあ、次に行こう。」

そう言って横断歩道を渡り、

皇大神社へ向かって走り出した。

その後を、

織と藍も、

笑いながら追いかけていった。

私もその後を追いかけ、

皇大神社へ向かった。

───

大きな木がつくる木陰は、

夏でも心地がいい。

少しだけ休憩することにした。

兄妹たちは、

滑り台へ一直線。

私はベンチに腰を下ろし、

子どもたちの笑い声を聞きながら、

遊ぶ姿を、

のんびり眺めていた。

「そろそろ行こう。」

「はーい!」

───

皇大神社を後にして、

小学校沿いの道を歩きます。

小布施交番を左へ曲がると、

すぐ左手に、

次の物語ボックスがありました。

その横には、

ひと休みできるベンチ。

少し先には、

土蔵ギャラリーを併設した、

かんてんぱぱショップ小布施店も見えてきます。

───

「お父さん、

次はこれ読んで。」

───

第四話 あきかさん

小布施町の物語ボックス「あきかさん」
小布施町にある物語ボックス「あきかさん」。中町を火災から守ったと伝わる秋葉権現の昔話が描かれています。

そう読むと、

藍が首をかしげた。

「パパ。

あきかんってなんだっけ?」

そのひと言に、

思わず笑ってしまいます。

すると、

織が紙芝居を見つめながら言いました。

「あきかさんだよ。」

姉妹のやり取りに、

穣も笑っていました。

「じゃあ、

読んでみるよ。」

───

物語の「あきかさん」とは、

横町に祀られている秋葉権現のこと。

中町を襲った大火の時、

村を火災から守ってくださった――

そんな昔話が、

小布施には今も大切に伝えられています。

「火事だー!」

その一言で、

子どもたちは、

物語に吸い寄せられていきました。

───

読み終えると、

穣がぽつり。

「神様って、

火も止められるのかな。」

「どうなんだろうね。」

織が言いました。

「火事のときは、

消防車を呼ばないとダメなんだよ。」

藍も続きます。

「救急車も、

呼ばないとダメなんだよねー。」

「そうだね。

まずは119番だ。」

すると、

穣が言いました。

「違うよ。

まず警察の人を

呼ばないとダメなんだよ。」

「みんな、

よく知ってるな。」

そう言うと、

穣が交番を指さしました。

「あそこのお巡りさんに

言ってくる!

『あきかん投げたら

火事になった!』って。」

「おいおい。

ちょっと待て。」

考えてみたら、

そりゃそうなるわな。

……自首する気か?

穣は、

「あっ、間違えた!

ベロベロバー!

逃げろー!」

そう叫ぶと、

逃亡犯のように、

一目散に走り出した。

「待てー!」

織と藍も、

笑いながら、

穣を追いかけていった。

「おーい!」

私もその後を追いかけた。

───

穣を追いかけながら、

そのまま歩きます。

すぐ先には、

最初の中町の信号機。

国道403号、谷街道を渡ります。

そこからは、

ギヤマン通り。

そちらへは行かず、

国道403号沿いを右へ。

少し歩くと、

中町南の信号。

その横断歩道を渡ると、

次の物語ボックスがありました。

───

第五話 まんない姫と小布施栗

小布施町の物語ボックス「まんない姫と小布施栗」
小布施町にある物語ボックス「まんない姫と小布施栗」。栗の里・小布施の始まりを伝える昔話です。

物語は、

栗の町・小布施の始まりを伝える昔話です。

徳川家康の姫が松代藩へ嫁ぐことになった時、

化粧料として与えられた土地が小布施でした。

その地に栗が植えられたことが、

今につながる、

栗の里・小布施の始まりだったと

伝えられています。

───

「俺も、

結婚する人、

選ぼうかな。」

穣が不思議そうに聞いてきた。

「どうやって?」

すると、

藍がすかさず、

「お父さん、

ママと結婚してるでしょ!」

「そうだった。」

「ど〜れ〜に〜しようかな。」

すると、

織が即答。

「絶対ヤダ!

好きな人いるもん。」

藍も負けじと、

「藍ちゃんね、

ヤマちゃん大好き。

しーちゃんはね、

タクミくんが好きなんだよ。」

「おいおい。

本人の前で、

全部バラすなよ。」

すると、

織が顔を真っ赤にして、

「藍!」

と妹をにらむ。

そんな空気も気にせず、

藍がにっこり笑って言った。

「穣くんはママで、

パパは藍ちゃんね。」

「それは嬉しいな。」

嬉しさに浸る暇もなく、

「次行こう!」

そう言って、

織が走り出す。

「待てー!」

穣も笑いながら、

追いかける。

「抱っこ。」

藍は、

私の足にしがみつく。

「はいはい。」

抱き上げると、

藍は満足そうに、

私の肩へ顔をうずめた。

───

兄妹を追いかけながら、

左へ伸びる大日通りを、

雁田山へ向かって歩いていく。

この先にも、

まだ知らない物語が待っている。

しばらく進むと、

北斎館入口のバス停。

北斎館から、

高井鴻山記念館の東門を通り、

北斎館入口のバス停まで続く、

「栗の小径」。

その横にある東屋で、

藍と二人、

ひと休みすることにしました。

───

「抱っこ。」

藍にせがまれ、

ここまでずっと抱いて歩いてきた。

「パパは藍ちゃんね。」

さっき言われたひと言が、

まだ嬉しくて、

すっかりその気になっていた。

……うまく使われたな。

気がつけば、

ここまでしっかり、

抱っこさせられていた。

───

辺りを見回すと、

穣と織の姿が見当たりません。

「どこ行った?」

しばらくすると、

二人が勢いよく走って戻ってきた。

穣が息を切らしながら言う。

「お父さん、遅いから、

この先の紙芝居まで、

見てきたよ!」

「なんて書いてあった?」

「えっと……

おまんの……

なんだっけ?」

どうやら二人は、

これから読む紙芝居を通り越し、

その次の物語ボックスまで、

見に行ってきたらしい。

その後ろから、

織も慌てて戻ってきた。

「慌てんな。

落ち着け。

少し休め。」

みんなで東屋に集まり、

腰を下ろす。

それぞれ、

お母さんが持たせてくれた水筒を取り出し、

冷たいお茶を飲んだ。

少し休むと、

子どもたちの息も、

ようやく整ってきた。

「じゃあ、

読みに行くか。」

「うん!」

東屋を後にして、

紙芝居の前へ向かいました。

───

「お父さん、

これも読んでよ。」

「はいはーい。」

言われるまでもなく、

今回も読み手は私です。

───

第六話 あわて男の善光寺参り

小布施町の物語ボックス「あわて男の善光寺参り」の前で記念撮影する親子
紙芝居を読み終えたあと、親子で記念撮影。旅の思い出も一枚残しました。

物語は、

山王島に暮らす彦作という男が、

善光寺へお参りに向かうお話。

何をするにも慌ててしまう彦作を描いた、

小布施に古くから伝わる昔話です。

───

紙芝居を読み終えると、

織が笑いながら言いました。

「お父さんみたい。」

穣も続けます。

「お父さんだ。」

二人とも、

口をそろえて言いました。

すると織が、

♪あわてんぼうのサンタクロース〜♪

と、

替え歌を歌い始めました。

穣は、

近くの標識をドラムに見立てて、

ノリノリでリズムを刻み始めた。

そんな兄と姉につられて、

藍も笑いながら踊り出しました。

「ちょっと待って。

写真撮るから。」

楽しそうな三人の姿を残そうと、

ポケットへ手を入れる。

……ない。

携帯がない。

「あっ!」

どこかへ置き忘れてきた。

慌てて記憶をたどる。

最後に携帯を手にしたのは、

さっき立ち寄った場所だった。

「みんな、

ここで待ってて!」

私は、

来た道を慌てて戻った。

幸い、

携帯は置いた場所に、

そのまま残っていました。

「よかった……。」

ホッとして三人のところへ戻ると、

子どもたちは、

私の顔を見るなり走り出しました。

「逃げろー!」

「待てー!」

私も、

その後を追いかける。

ほんの少し走っただけなのに、

すぐに息が上がる。

慌て者の彦作を笑っていたはずが、

一番慌てていたのは、

どうやら私だったようです。

気がつけば、

三人が先に見つけていた、

次の物語ボックスの前まで来ていました。

───

読み手は、

懲りもせず、

今回も私が務めます。

───

第七話 おまんの布池

小布施町の物語ボックス「おまんの布池」の前で笑顔を見せる子ども
小布施町にある物語ボックス「おまんの布池」。物語ボックス巡りを楽しみながら、笑顔で記念撮影しました。

物語は、

雁田山のふもとに暮らしていた、

染め物上手な娘、

おまんのお話です。

なぜこの場所が、

「おまんの布池」と

呼ばれるようになったのか。

その由来を伝える、

小布施に古くから残る昔話です。

───

紙芝居を読み終えると、

織が言った。

「しーちゃんね、

保育園でね、

花水作ってるんだよ。」

「えっ!」

穣が目を丸くする。

「鼻水食ってんの?」

「違う!」

織が笑う。

藍も負けじと、

「藍ちゃんも!」

「二人とも、

きったねぇ〜!」

穣は笑いながら逃げ出した。

「待てー!」

織と藍も、

その後を追いかける。

私も三人を追いながら、

大日通りのイチョウ並木に沿って、

雁田山へ向かって歩いていった。

───

松村町営駐車場前の信号を渡ると、

目の前には、

大きな町内案内図。

その右手にある駐車場で、

さすがに我慢しきれず、

タバコに火をつけた。

煙を眺めながら、

ふと、

先ほど読んだ、

「おまんの布池」の物語を思い返す。

染め物上手だったおまんと、

草花を集めて花水を作る藍。

ほんの少しだけ、

二人の姿が重なって見えた。

そんな物語の余韻に浸っていると、

子どもたちは、

父親の気持ちなどお構いなしに、

元気よく走り回っていた。

慌て者の話を読んだあと、

慌てて携帯を取りに走った私。

ヤニ切れも解消したところで、

今回も遠慮なく、

読ませていただきます。

……もう、

紙芝居担当で、

いいようです。

───

第八話 西向きの大日さん

小布施町の物語ボックス「西向きの大日さん」の前で記念撮影する子どもたち
「西向きの大日さん」を読み終えて、三人で記念撮影。物語を読みながら歩く時間が、家族の思い出になりました。

物語は、

福原にある大日堂に伝わる、

「西向きの大日さん」のお話です。

大日堂の前を通る馬が、

突然暴れ出し、

村人たちを困らせていました。

そこで村人たちが、

お堂の扉を開き、

中に祀られていた大日さまを

西向きにしたところ、

それまで暴れていた馬は、

不思議とおとなしくなったと伝えられています。

なぜ大日さまは、

西を向くようになったのか。

その由来を伝える、

小布施に語り継がれる民話です。

───

物語を読み終えると、

穣がタイトルを指さした。

「ほら、お父さん。

西って書いてある。

西野の『西』と一緒だよ。」

「本当だ。

うちの玄関も、

西向きにつくったんだぞ。」

「なんで?」

織が聞く。

「お父さん、

西日が好きなんだよ。」

「西ってどっち?」

穣が辺りを見回す。

すると藍が、

「藍ちゃんも!」

相変わらず、

会話にはなっていない。

思わず笑ってしまった。

紙芝居の中の「西」から、

いつの間にか、

西野家の話になっていた。

こんな何気ないひと言まで、

きっと、

いつか思い出になる。

「さあ、次へ行こう。」

───

西向きの大日さんを後にして、

松村町営駐車場と、

陣屋通りが交わる信号を左へ。

右手には雁田山。

左手には、

中学校のグラウンドが広がっています。

浄光寺へ続く薬師通りには曲がらず、

そのまま陣屋通りを歩きました。

六川南の交差点を渡り、

今度は左へ。

右手には、

昔ながらの岩崎パン屋さん。

気がつけば、

先ほどまで右手に見えていた雁田山が、

今度は背中へ回っていました。

左手には、

中学校の正門。

その手前には、

古陶磁コレクション「了庵」。

さらに歩くと、

小布施ミュージアムの駐車場が見えてきた。

入口の案内板の手前には、

今日九つ目となる、

物語ボックス。

───

誰も、

「読んで。」

とは言わない。

それどころか、

誰一人、

紙芝居の前へ来ない。

「おーい!」

何度呼んでも、

誰も来ない。

「全員集合ー!」

思い切り叫ぶと、

穣が、

最近ハマっている、

志村けんのヒゲダンスを踊りながら、

「デンデンデンデン〜、

デンデンデン♪」

と登場した。

その後ろから、

織と藍も続く。

……ようやく、

全員集合である。

───

第九話 竜灯の雨ごい

小布施町の物語ボックス「竜灯の雨乞い」と小布施ミュージアム前の風景
「竜灯の雨乞い」の物語ボックス。千曲川に伝わる龍の伝説が、小布施の昔話として今も語り継がれています。

物語は、

日照りが続き、

困り果てた村人たちが、

玄照寺に集まって雨乞いをしたお話です。

すると、

北の海から一匹の龍が現れ、

千曲川を上って小布施へやって来ました。

そして龍が雨を降らせたことで、

村は救われたと伝えられています。

日照りの中に現れた龍と、

村人たちの願いを描いた、

小布施に語り継がれる不思議な民話です。

───

紙芝居を読み終えると、

穣が言った。

「えっ!

千曲川に、

カイリューみたいなのが住んでたの?」

「えっ!

あのポケモンに出てくるやつ?」

織も驚く。

藍は、

「そうだ。

いるかもよ。」

子どもたちの頭の中では、

もう、

本物の龍ではなく、

ポケモンのカイリューが、

千曲川を泳いでいた。

三人とも、

本気で想像している顔だった。

相変わらず、

子どもたちの発想や会話、

ころころ変わる表情は、

親として見ていて本当に面白い。

「さあ、あと一つだ!」

そう声を掛けると、

三人は元気よく、

「エイ! エイ! オー!」

───

……とは言ったものの、

最後の一つまでは、

まだ少し距離がある。

今来た道を引き返し、

ギヤマン通りを背に、

雁田山へ向かって歩き出した。

六川南の交差点を渡る。

左手には、

歴史民俗資料館

そのまま歩き、

北信濃くだもの街道と交わる、

中松中央の信号へ。

信号を渡る手前、

右角のファミリーマートで、

少しひと息つき、

冷たいジュースで喉を潤した。

「さあ、

最後まで顔晴ろう!」

そう声を掛けると、

穣は、

「よっしゃー!」

と元気よく歩き出した。

「お父さん、

抱っこして。」

そう言って、

両手を広げる藍。

それを見た織が、

「藍ちゃん、ずるいよ!」

と、

負けじと声を上げた。

まずは藍を抱っこする。

中松中央の交差点を渡り、

一つ目の交差点を右へ。

そこで藍を降ろすと、

今度は、

「しーちゃんの番!」

と、

織が両手を伸ばしてきた。

交代で織を抱きかかえ、

ぶどう畑と、

静かな住宅街の道を進む。

やがて、

藍が嬉しそうに言う。

「ここを右に曲がれば、

藍ちゃんの保育園なんだよー。」

その道を通り過ぎたところで、

織を降ろした。

「あと少しだ。

最後まで諦めるな。」

そう声を掛けると、

織は少しだけ駄々をこねる。

すると藍が、

「お姉ちゃん、

一緒に行こう。」

と、

手を差し伸べた。

───

しばらく歩くと、

穣が思い出したように言う。

「あっ!

ここを右に曲がれば、

かくれんぼしたところだよね〜。

木の下で割れたお皿、

一緒に拾ったじゃん。」

確かに、

その交差点を右に曲がると、

樹齢約七百年の古木、

雁田のヒイラギ」がある。

私たちは、

その交差点も通り過ぎ、

道なりに歩き続けた。

そして織が、

前を指さしながら言った。

「このまま真っすぐ行くと、

岩松院。」

子どもたちには、

同じ道でも、

それぞれ違う思い出がある。

そんな話をしながら歩いていると、

ようやく、

岩松院が見えてきた。

長かった物語巡りも、

いよいよ最後である。

───

おぶせ物産館の店内には、

フルーツタルトとランチが人気の、

KUTEN. fruit & cake」がある。

その横に、

最後の物語ボックスがあった。

表紙には、

力強く祭り屋台が描かれている。

岩松院の前には、

見事な一本松が立っていた。

ここまで歩いてきた家族の視線が、

ゆっくり、

私に集まる。

……はいはい。

分かりました。

読みますよ。

───

第十話 北斎と鴻山と

小布施町の物語ボックス第十話「北斎と鴻山」。岩松院前に設置された紙芝居型の案内板。
第十話「北斎と鴻山」。葛飾北斎を小布施へ招いた高井鴻山の物語が描かれています。

物語は、

天保の大飢饉に苦しむ人々のために、

力を尽くした高井鴻山のお話です。

その後、

葛飾北斎と出会い、

小布施へ招いたことで、

町には数多くの名作が残されました。

人々を救い、

文化を育てた、

高井鴻山の生涯を伝える、

小布施に語り継がれる物語です。

───

小布施町内十か所の、

物語ボックスを読み終えた。

この町で、

世界に誇る数々の名画が生まれた。

その始まりは、

一人の豪商と、

一人の絵師との出会いだったのかもしれない。

そんな余韻に浸っていると、

穣がひとこと。

「お父さん!

あそこに美味しそうなケーキがあったから、

買ってくんない?」

すると織が、

「しーちゃんね、

保育園の遠足でここ通ったから、

このお店知ってるんだよ。」

すると藍も負けじと、

「藍ちゃんも知ってるよ。

ね〜、しーちゃん。」

私は思わず笑ってしまった。

「じゃあ、

お母さんにお土産も買っていくか。」

子どもたちの笑い声が、

店の中へ吸い込まれていく。

小布施で出会った物語に思いを巡らせる父と、

目の前のケーキに夢中な子どもたち。

それもまた、

我が家らしい、

小布施の思い出になった。

───

おわりに

今回は、

小布施町役場のホームページに、

掲載されている順番で巡ってみました。

子どもたちと一緒に歩いて、

およそ5.5km。

途中で休憩したり、

物語ボックスを読んだり、

寄り道をしたり。

大人だけなら、

2〜3時間ほど。

子どもと一緒なら、

半日かけてのんびり楽しめます。

───

全部巡ってもいい。

気になった物語だけを訪ねてもいい。

お寺や美術館を巡りながら歩いてもいい。

カフェでひと休みしながら、

のんびり過ごしてもいい。

歩く人によって、

出会う景色も、

感じる物語も違います。

ぜひ、

あなただけの小布施の物語を、

見つけてみてください。

───

第一話で立ち寄った、

石積みの休憩スペースに、

投句箱があったのをご存じでしょうか。

旅の始まりに見かけた、

あの投句箱です。

小布施の町を歩き、

十の物語を巡ったあと、

旅の思い出に、

一句投じてみてはいかがでしょうか。

小布施駅前の投句箱の前でポーズをとる子どもたち。物語ボックス巡りの出発地点。
想い馳せ 小布施歩けば 物語   

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

これからも、家族と過ごす何気ない日々や、

小さな幸せを記録として残していきます。

もし、何か一つでも心に残るものがあれば、

👣足あとを残していただけると励みになります。


このブログは、

迷いながらも、

家族と歩き続ける、

私の「みちしるべ」です。

───

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