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見えているのは、同じ絵じゃない|令和収蔵品展Ⅱ期

小布施ミュージアム中島千波館で令和収蔵品展Ⅱ期を楽しむ姉妹 小布施ミュージアム

【 小布施でアートを感じる記録 】
▶ 賑わいの中で、繋がっていくもの。
▶ 北斎館で感じた、“別の波”
▶ 祭り屋台と、中島千波館の屋台蔵を歩いた日
▶ あかり博物館で、昔の灯りを見つめた日
▶ 小布施と雨と、中島千波館での一日
動き続ける絵と、止まらない視線

小布施・中島千波館で見た収蔵品展Ⅱ期

「Ⅱ期 ― 交差するまなざし ―」
(令和8年5月30日〜8月3日)

前回は息子と来た。

今回は姉妹と一緒だった。

絵を見に来たはずなのに、

気づけば今回も、

見ていたのは子どもたちの方だった。

感じ方は人それぞれ。

だから、ここにあるのは答えじゃない。

――ただ、姉妹にはこう見えていた。

それだけの話だ。


ー第1展示室ー

入口の奥、正面。
猫たちの世界が広がっていた。
近くで見ると、姉妹には公園だった。


《猫集会》金木正子

展示室に入ると、

最初に飛び込んできたのは猫たちだった。

「あっ、滑り台だ!」

長女が言う。

「ブランコもあるよ!」

次女が言う。

「ああ、本当だね」

そう言いながら見ていると、

今度は長女が言った。

「あ、お砂場もあるじゃん!」

すると次女が言う。

「これ、近くの公園と一緒じゃん」

なるほど。

確かにそうだった。

滑り台があって、

ブランコがあって、

砂場がある。

猫までいる。

作者は猫たちの集会を描いた。

けれど姉妹には、

いつもの公園に見えたらしい。


《東方の庭》田宮詩子

鮮やかな花柄の服。

少し頬がほてっているようにも見える。

後ろには、

橙色に染まった太陽。

夕日なのか。

西日なのか。

はっきりとは分からない。

南国の若い女性。

そんな絵だった。

「お花持ってるね」

次女が言う。

すると長女が言った。

「好きな人に会いに行くんだよ」

「だって、お花持ってるし、ほっぺが赤いじゃん」

なるほど。

俺は夕日だとか、

西日だとか考えていたけれど、

子どもたちは違った。

見えたものを、

そのまま見ていた。

でも、

その方が本質に近いこともある。


《つながり》小林英且

白樺の森の中に、

魚がいて、

鹿がいて、

象がいて、

そして大きなクジラまでいた。

その真ん中には、

ひとりの女の人が立っていた。

「なんでペンギンいるの?」

長女が言う。

「クジラもいるじゃん」

次女が言う。

確かに森である。

海ではない。

すると長女が言う。

「みんな迷子になっちゃったのかな?」

「あ、じゃあ象さんが案内してるんじゃない?」

「ダンボのお母さんだから」

次女が得意げに言う。

そこで私は言った。

「よく見てごらん。みんな一本の糸で繋がってるよ」

「あ、本当だ!」

長女が声を上げる。

すると次女が言う。

「みんな風船持ってるんだよ」

「何色の風船持ってるのかな?」

長女が聞く。

作者の題名は

『つながり』。

迷子の動物たちなのか、

風船で繋がった仲間たちなのか。

姉妹には、

ちゃんと見えていたらしい。

《つながる想い》

見渡す限り、

蓮の葉が広がっていた。

その真ん中に、

白い服を着た女の人が立っている。

しばらく眺めていた長女が言った。

「お父さん、これ四つ葉のクローバー?」

そして今度は、

ピンクの花を指さして言った。

「これは神様のお花でしょ」

すると次女が、

「あっ!これYouTubeで見たよね!」

と言い出した。

「孫悟空のやつ!」

「三蔵法師が持ってた!」

そう言った途端、

二人で盛り上がり始める。

「なんまいだー!」

「からぷりかー!」

何を言っているのか分からない。

そして、

「お父さんやって!」

と私に向かって言う。

どうやら、

孫悟空の頭にはめる輪っかを

やれということらしい。

気づけば姉妹は、

完全に三蔵法師側になっていた。

父親だけが、

孫悟空だった。


《表裏明暗》井上越道

白と黒。

道にも見えるし、

迷路にも見える。

たくさんの自転車が並んでいた。

「あ、これ壊れてんじゃん」

次女が言う。

「あ、本当だ」

長女が覗き込む。

そして、

大きな車輪と小さな車輪を指さした。

「これ、ピエロの自転車じゃない?」

また別の自転車を指さして、

「これは昔の自転車だね」

二人で話が盛り上がる。

そのうち次女が、

「これ!近所のお兄ちゃんの自転車!!」

と言い出した。

俺には道にも迷路にも見えた。

でも、

子どもたちには、

自転車の持ち主が見えていたらしい。


《迫るゴールライン500m 決断の時》

自転車が並んでいた。

みんな前かがみになって、

必死にペダルを踏んでいる。

ゴールを目指しているのだろう。

「競争してるんだよ」

姉妹の意見は一致した。

でも、

誰が勝つかで話が分かれる。

「絶対、この赤い人が一位!」

長女が言う。

「違うよ。紫の人が一番だよ!」

次女が言う。

同じ絵を見ているのに、

見ている未来は違うらしい。

二人とも真剣だった。


《歌を歌って》高岡香苗

大きな白い虎だった。

青い目をしていて、

どこか優しそうな顔をしている。

背中には小さな鳥たちが並んでいた。

「ホワイトタイガーだよ」

長女が言う。

そして、

「なんで鳩が乗ってるの?」

次女はすぐに、

「ほー、ほー、ほっほ〜」

と鳩の真似を始めて笑っている。

すると長女が言う。

「ホワイトタイガーが鳩の真似してんじゃない?」

続いて次女が言う。

「チュンチュンがね、背中をくすぐってるからね〜」

「おーって我慢してるの!」

そう言われると、

虎の顔がだんだん、

くすぐったさを我慢している顔に見えてきた。

歌っているのか。

笑っているのか。

それとも、

ただ我慢しているのか。

もう分からない。


《天龍》

最初に見た時、

龍というより、

大きな蛇にも見えた。

黒い空間の中を、

うねるように身体を伸ばし、

丸い月を掴もうとしている。

「おじいちゃんが金玉持ってる」

次女が言う。

「違うよ。龍だよ」

長女が言う。

「龍が月持ってるんだよ」

すると次女が、

「だって、おじいちゃんみたいな顔で、ひげ生えてるじゃん」

と言った。

「あ、本当だ」

長女も納得する。

でも最後は、

「だけどこれ龍だよ」

だった。

俺は龍だとか、

神話だとか考えていた。

でも姉妹のやり取りを聞いていたら、

だんだん年老いた龍に見えてきた。


《親愛なる》横山美賀

黒い服と、

白い服。

向かい合う二人が、

光を包むように手を重ねている。

「アルプス一万尺やってるんだよ」

次女が言う。

すると、

その場で二人して

アルプス一万尺を始めた。

たしかに。

向かい合って、

手を合わせている。

子どもたちには、

難しい意味より先に、

遊んでいるように見えたらしい。

作品を見ているはずなのに、

気づけばアルプス一万尺になっていた。


《土と膚》

大きな女性が横になっていた。

眠っているようにも見える。

けれど、

大きなお腹を抱えていて、

出産を迎える直前のようにも見えた。

苦しそうにも見えるし、

何かに耐えているようにも見える。

すると長女が言った。

「ああ、これ保育園で見たやつだ」

次女も言う。

「ああ、これ見たよね」

そして少し考えてから、

「これたぶん、ガリバーの結婚した人の彼女じゃないの?」

何を言っているのか、

正直よく分からない。

けれど本人たちの中では、

ちゃんと話がつながっているらしい。

続いて次女が、

両手を動かしながら言う。

「こう、縛っちゃうんだよね」

気づけば、

目の前の作品は、

もう美術館の作品ではなかった。

姉妹の中では、

ガリバーの物語の続きになっていた。

同じ絵なのに、

見えている世界はまるで違った。


《空 -朝- / 空 -夕-》山本陽光

同じ白い服で、

同じように空を見上げている。

「これ、おまじないしてるんじゃない?」

長女が言う。

すると次女が、

「違うよ。これが私」

髪の短い方を指さした。

そして、

「こっちがお姉ちゃん」

今度は髪の長い方を指さす。

朝の空と夕方の空。

そんなことより、

二人には姉妹に見えたらしい。

たしかに、

並んで空を見上げる姿は、

どこか二人に似ていた。

「姉妹なんだよ」

そう言いながら、

二人で勝手に物語を作っていた。

気づけば、

朝と夕方の絵ではなく、

姉妹の絵に見えていた。


絵を見に行った。

でも、

気づけば作品より、

姉妹が何を言い出すのかの方が楽しみになっていた。

龍はおじいちゃんになり、

蓮の花は神様の花になり、

クジラは迷子になる。

同じ絵を見ているのに、

見えている世界が全然違う。

気づけば、

絵より先に、

姉妹の第一声を待っている自分がいた。

それが一番面白かった。

作品を見ていたのか。

姉妹を見ていたのか。

最後まで、

よく分からなかった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

こうした何気ない一日を、
これからも記録として残していきます。

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歩きながら、
少しずつ繋がっていった記録です。

▶ 御開帳と善光寺焼シリーズ
▶ 赤塩焼シリーズ
▶ 空気シリーズ

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