優しい人から、黙っていく
昔、
幼馴染がいた。
子供の頃は、
毎日のように一緒に遊んでいた。
くだらない話で笑って、
馬鹿なことをして怒られて、
暗くなるまで一緒に遊んだ。
秘密基地を作ったこともある。
自転車で遠くまで行ったこともある。
何をする訳でもないのに、
毎日のように顔を合わせていた。
子供の頃は、
みんなよく喋った。
夢の話。
好きな子の話。
将来の話。
腹の立った話。
楽しかった話。
悲しかった話。
別に立派なことじゃない。
ただ、
思ったことをそのまま話していた。
⸻
けれど、
大人になるにつれて、
少しずつ変わっていった。
久しぶりに会う。
酒を飲む。
昔話で盛り上がる。
笑う。
けれど、
気付けば、
誰も今の話をしなくなっていた。
仕事はどうだ。
家庭はどうだ。
本当は元気なのか。
悩みはないのか。
聞けば答える。
ちゃんと答える。
けれど、
どこか表面だけだ。
「まぁ普通。」
「ぼちぼち。」
「そんなもんだよ。」
それ以上は出てこない。
昔はあんなによく喋っていたのに。
何かあったのかもしれない。
何もなかったのかもしれない。
それは分からない。
⸻
ただ、
大人になると、
人は少しずつ学ぶ。
言わない方がいいこと。
黙っていた方が楽なこと。
本音を隠した方が揉めないこと。
そして、
少しずつ言葉をしまい込む。
人は、
怒鳴られたから黙るとは限らない。
何度も話を流されたり。
何度も笑われたり。
何度も否定されたり。
そんな小さなことが積み重なる。
すると、
いつの間にか、
言葉を飲み込むのが上手になる。
⸻
本当は違うと思っていても、
まぁいいか。
本当は苦しくても、
大丈夫。
本当は助けてほしくても、
何とかなる。
そうやって、
少しずつ黙っていく。
そして不思議なことに、
優しい人ほど、
先に黙る。
周りを考えるから。
空気を読むから。
揉めたくないから。
だから、
最後まで残るのは、
声の大きい人の言葉ばかりになる。
みんなが賛成した訳じゃない。
みんなが納得した訳でもない。
ただ、
優しい人が黙っただけだ。
⸻
最近、
そんなことを考えるようになった。
昔の幼馴染たちを思い出しながら。
あいつは元気だろうか。
本当は何を考えているのだろうか。
俺が知らないだけで、
抱えているものもあるのだろう。
それはきっと、
みんな同じだ。
見えないものに、
人は一番苦しむ。
⸻
だから、
たまには聞いてみたい。
「本当はどうなんだ?」
と。
そして、
自分自身にも聞いてみたい。
ちゃんと声を出せているか。
ちゃんと本音を話せているか。
気付けば、
自分も黙る側になっていないか。
そう思うことがある。
優しい人から、
黙っていく。
そして、
黙ったことすら、
誰にも気付かれない。
だからこそ、
たまには言葉にした方がいい。
生きているうちに。
なお、本記事は特定の個人や団体を指すものではありません。
また、家族や関係者を含め、誰かを攻撃したり誹謗中傷する目的で書いたものでもありません。
人それぞれに事情や立場があり、見えない部分もあります。
誰かを傷つけるためではなく、自分自身の経験や感じたことを記録として残しています。
歩きながら、
少しずつ繋がっていった記録です。
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