君は考えたことがあるかい?
人には、
生まれた日から今日まで、
誰にも見えない歴史がある。
───
親に愛されて育った人もいる。
親を知らずに育った人もいる。
裕福な家庭で育った人もいる。
明日の飯を心配して育った人もいる。
たくさん褒められて育った人もいる。
毎日怒鳴られて育った人もいる。
守られてきた人もいる。
誰にも頼れず生きてきた人もいる。
同じ年齢でも違う。
同じ仕事でも違う。
同じ町に住んでいても違う。
その時、
その場所で見えているものなんて、
君にも、
私にも、
ほんの一瞬の一コマに過ぎない。
今の顔。
今の言葉。
今の態度。
今の空気。
今の立場。
それだけで、
人は分からない。
そこに至るまでの道は、
誰にも見えないからだ。
───
いつも笑っている人がいる。
その人が、
ずっと笑って生きてきたとは限らない。
怒りっぽい人がいる。
その人が、
好きで怒りっぽくなったとは限らない。
人付き合いが苦手な人がいる。
その人が、
最初からそうだったとは限らない。
無口な人がいる。
何も考えていないように見える人もいる。
でも、
本当にそうなんだろうか。
誰にだって、きっと理由がある。
見えないだけなんだ。
失敗した人には、失敗までの道がある。
諦めた人には、諦めるまでの道がある。
頑張っている人には、頑張る理由がある。
優しい人には、優しくなった理由がある。
今だけを見ても、分からないことの方が多い。
───
だから私は、誰かを見た時、
少しだけ考えるようになった。
何があったんだろう。って
どんな道を歩いてきたんだろう。って
何を失ったんだろう。
そして、何を守ってきたんだろう。って
もちろん、いくら考えても分からない。
聞いても分からないこともある。
本人だって、説明できないこともある。
それでも、そう思うだけで、人の見え方は少し変わる。
───
私は施設で育った。物心ついた頃には、
たくさんの兄弟に囲まれて暮らしていた。
毎日一緒に遊び、毎日一緒に怒られ、毎日一緒に笑った。
苦楽を共にし、寝食を共にし、
同じ風呂に浸かりながら、
仲間との絆を織り重ねてきた。
でも、みんな同じではなかった。
名字が違った。
面会の日になると、
親が迎えに来る子もいた。
帰っていく子もいた。
私は、
その様子を静かに見送る側だった。
誰も口にはしない。
それでも、
それぞれに事情があることだけは、
子どもながらに感じていた。
施設では、
強い者の上には、もっと強い者がいた。
威張っていたやつが、
翌日には頭を下げていることもあった。
助ける者もいれば、助けられる者もいた。
出会いもあった。
別れもあった。裏切りもあった。
それでも、また笑い合う日があった。
施設を出てからもそうだった。
姿や形は変わっても、
人との関わりは、
何ひとつ変わっていなかった。
仲良くなる人には、
どこか似たような過去があった。
親がいない人。片親の人。
里親のもとで育った人。
祖父母に育てられた人。
養子縁組で新しい家族と暮らした人。
親との関係に苦しんでいる人。
みんな事情があった。
それぞれに、
誰にも見えない歴史があった。
───
私にも、産んでくれた親がいた。
ただ私は、
育ててもらった記憶がない。
その事情を責めようとは思わない。
どれだけ苦しかったのかは、
本人にしか分からないからだ。
でも、
ひとつだけ思うことがある。
親がいて、そのまた親がいて、
さらにその先には、
何代も前の先祖がいる。
命は、ずっと繋がってきた。
その命が繋がってきたからこそ、
今の私がいて、今の君がいる。
笑うこともできる。
泣くこともできる。
怒ることもできる。
悩むこともできる。
こうして、君と出会うこともできた。
私は、
その命が繋がってきたことへの
感謝だけは、忘れたくない。
───
私は、
ここまでたくさんの人と出会ってきた。
その一人ひとりに、
それぞれの歴史があった。
だから私は、
今だけで人を決めつけたくない。
見えている言葉だけで、
分かったつもりにもなりたくない。
君にも歴史がある。
私にも歴史がある。
人には、その人だけの歴史がある。
生まれた日から今日まで、
誰にも見えない歴史がある。
だから私は、
人を知ろうとすることを、やめたくない。
その想いは、
藍のように静かに心へ染み込み、
人と人とのご縁を織り重ね、
いつの日か、穣かな実りへと育っていく。
今日もまた、君と出会えた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
こうした何気ない一日を、
これからも記録として残していきます。
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歩きながら、
少しずつ繋がっていった記録です。


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