― りんごの花が咲く頃、日本海へ春を釣りに行く ―
桜の花びらが散り、
桃の花が咲き誇り、
りんごの花が開き始める頃。
久しぶりのオフショアジギングへ出掛けた。
向かった先は新潟県上越市直江津港。
いつもお世話になっている遊漁船「浅間丸」さんだ。
ここ数年、春になると日本海へ鰤を追いかける。
前日のうちからタックルや仕掛けを確認する。
ロッドは何本持っていくか。
ジグは何グラムにするか。
リーダーに傷はないか。
忘れ物はないか。
何度も確認する。
釣りは海へ出る前から始まっている。
そんな時間もまた楽しい。

仕事明けの土曜日。
野暮用も重なり、ほとんど寝ていなかった。
親友の拓平さんの計らいで前泊させてもらい、久しぶりにしっかり睡眠を取ることができた。
まだ暗い時間に起き出し、コンビニへ寄って港へ向かう。
すでに船の周りには乗船を待つ人たちが集まっていた。

「おはようございます」
「おー、久しぶりじゃねーか」
声を掛けてくれたのは常連のアキオさん。

以前、目の前で17キロの鰤を釣り上げた凄腕の釣り師だ。
アキオさんの手作りアシストフックは良く釣れる。
実際に何度も助けられてきた。
最近の釣果や海の様子を聞きながら準備を進める。
こういう時間も釣りの楽しみの一つだ。
やがて船は静かに岸を離れた。
朝日を浴びながら走る日本海。
何度見ても胸が高鳴る。

ポイントへ到着。
船長代行じゅんさんから
アナウンスと同時に合図の警笛が鳴る。
水深120メートル。
ボトムから30メートル。
普段なら我先にと焦るところだが、この日は不思議と落ち着いていた。

深呼吸をして一投目。
着底。
巻く。
落とす。
その繰り返し。
すると突然、
ゴツッ。
反射的に合わせる。
乗った。
重い。
遠い。
腕も悲鳴を上げる。
それでも巻く。
やがて海面に銀色の魚体が浮かんだ。
本命の鰤だ。

会心の一撃だった。
今年最初のブリっぶりの鰤。
思わず顔がほころんだ。
やっぱり鰤は格好いい。
幸先の良いスタートだったが、その後は渋かった。
潮が止まったように魚の反応が遠のく。
それでも新潟名物とも言われるホッケが顔を見せてくれた。

アキオさんは慣れた手つきでホッケを捌き、
船の上で開きにして干していく。
海の男の手際は見ていて気持ちがいい。
鳥が集まる場所には魚がいることが多い。
そんな話をしながら海鳥の動きを追う。

すると今度は拓平さんのロッドが大きく曲がった。
次期船長の呼び声も高い拓平さん。
見事なやり取りで真鯛を釣り上げる。
流石だ。
鰤を掬ってくれた時もそうだったが、
魚との距離感が絶妙に上手い。

古びたジグを使い続ける拓平さん。
「新しい道具だと釣れる気がしないんだよ」
妙に心に残る言葉だった。
最終流しでは、俺にも大物が掛かった。
だが、あと少しのところでバラしてしまう。
逃した魚は大きい。
悔しい。
けれど、それも釣りだ。
⸻
帰港して陸へ上がる。
身体はまだ揺れている。
それでも気分は悪くない。
クーラーボックスには魚が入っている。
それだけで十分だった。

帰宅すると今度は食べる楽しみが待っていた。
親友のブンsunに電話を掛ける。
応援依頼である。
ブンsunこと按摩堂の中村先生。
以前、日本料理の世界にいたこともあり、この日はまるで出張ケータリング状態だった。

包丁が入るたびに魚が姿を変えていく。
まずは鰤。
ブンsunこと中村先生が手際よく捌いていく。
「鮮度がいいね」
その一言が嬉しかった。
カマやアラは煮付けや保存用に。
身は刺身用に切り分けられていく。

続いてホッケ。
アキオさんが船上で開きにしてくれたものだ。
こちらは刺身と一夜干しに。
海の上から始まったご馳走作りは、家へ帰ってからも続いていた。

最後は鰤の薄造り。
透き通るような身が皿の上に並ぶ。
海の幸と春の山菜。
贅沢な食卓が出来上がった。

今回もたくさんの人に支えられながら海を楽しむことができた。
魚が釣れたことも嬉しい。
けれど、今思い出すのは魚より人の顔だったりする。
春になれば、またりんごの花が咲く。
その頃になったら、きっとまた日本海へ向かうのだろう。
感謝。
歩きながら、
少しずつ繋がっていった記録です。


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