仕事が休みだった、ある日のこと。
近くで建設会社を経営している幼なじみが、久しぶりに家へ遊びに来た。
実は、その幼なじみは私の弟と同い年で、呼び名も弟と同じだった。
そんなこともあって、昔からどこか身内のような存在だった。
昼から酒を酌み交わしながら昔話に花を咲かせていると、一本の電話が鳴った。
相手は東京にいる幼なじみだった。
そのままスピーカーホンにすると、昔話に花が咲いた。
「会いたくなってきたな。」
「じゃあ、今から行くか。」
その一言で東京行きが決まった。
慌ただしく支度を済ませ、私たちは長野を出発した。
車の中は昔話ばかり。
笑いっぱなしの道中だった。
そして、想像をはるかに超える早さで東京へ着いてしまった。
⸻
最初の待ち合わせ場所は、
子どもの頃によくお祭りへ行った浅間神社だった。

先ほど電話で話していた幼なじみの一声で、
近くに住んでいる先輩や後輩、昔の仲間たちが大勢集まっていた。
写真には、わけあって写ることのできない仲間もいる。
それでも、
二十年ぶりに会う仲間。
三十年ぶりに会う仲間。
五年ぶりに会う仲間。
何年会っていなくても、
顔を見れば一瞬であの頃に戻った。
不思議だった。
三十年という時間が流れていたはずなのに、
誰一人として昨日まで一緒にいたような距離感だった。
一通り挨拶を済ませると、そのまま隣にある私が育った児童養護施設へ向かった。

建物はすっかり建て替えられ、門も新しくなっていた。
あまりの変わりように、一瞬ここで間違いないのかと思ったほどだった。
ちょうど外へ出てきた女性に声を掛けた。
「すみません、昔からいる先生いる?」
その人は職員さんだった。
「少々お待ちください。」
そう言って中へ入っていった。
しばらくすると、院長先生が出てきてくださった。
話を聞くと、当時の院長先生は理事長になられていて、その日は留守とのことだった。
そして、目の前にいる院長先生は、私の弟や後輩たちの世代から施設に入った職員さんだった。
私は、
「俺のこと知ってる?」
と聞いた。
すると、
「もちろん知ってるよ。弟さんのことで何度か会ってるから。」
そう笑顔で答えてくれた。
その一言で、忘れていた記憶が一気によみがえった。
施設をあとにすると、みんなでそのまま街を歩き始めた。

「行くぞ。」
その一言で、みんなが動き出す。
私はただ、そのあとについて歩いた。
昔からある店。
知り合いの店。
後輩の店。
行く先々で顔を出しては挨拶をする。
「あとでこっち来いよ。」
「おう、またな。」
そんな声が飛び交い、
誰かと別れては、
また誰かと合流する。
あの日の街だけは、
時間が止まったままだった。
ある店では、子どもの頃から知っている同級生のお父さんが店にいた。
しかも、そのお父さんは私と同じ名前だった。
「ご無沙汰しています。昔、お世話になりました。」
そう挨拶すると、
「アイツは今、野方にいるんだよ。」
と息子の近況を教えてくれた。
「そうなんですね。また、よろしくお伝えください。」
元気でやっている。
そのことが分かっただけで、それで十分だった。
その途中で母校にも立ち寄った。
学校名は変わり、小中一貫校になっていた。
校舎も建て替えられ、昔とはすっかり様変わりしていた。
そこでも長居することなく、またみんなについて歩く。
雨は降り続いていた。
笑って、
話して、
飲んで、
また歩く。
雨に濡れていることさえ、
気にならなかった。
あの頃に戻ったような、
そんな一日だった。
何軒回ったのか、もう覚えていない。
最後に入ったのは、おでんが看板の居酒屋だった。
季節柄、おでんはやっていなかったが、最後の一杯を飲んだ。
気が付けば、みんなベロベロだった。
「またな。」
「また遊びに来いよ。」

「俺も今度、家族で長野へ行くから。」
「その時は案内してくれよ。」
そんな約束を交わし、お互いに連絡先を交換した。
自然と一人、
また一人と帰っていく。
⸻
私は少し外の風に当たりたくなって、一人で江古田駅北口公園へ向かった。
ここは、
ビニールバットとゴムボールで野球をしたり、
「ケイドロ」をして走り回ったり、
ビー玉で「インキョ」をしたり、
「ゲンスイ」というボール遊びに夢中になったり、
深夜の公園のベンチでバーベキューをしたり。
昼も夜も関係なく、
仲間たちが集まっていた、
思い出の詰まった懐かしい場所だった。
雨は相変わらずの土砂降りだった。

トイレの屋根の下で雨宿りをしながら、タバコに火をつけた。
フィルターを噛みながら、一服する。
吐き出した煙は蛍光灯に照らされ、
ゆっくりと揺れながら、
土砂降りの雨の中へ消えていった。
今日一日の出来事が、
走馬灯のように頭の中を流れていく。
懐かしい仲間たちとの再会。
育った施設。
母校。
北口公園。
目が痛いのは、
タバコの煙のせいなのか。
雨のせいなのか。
それとも、
涙だったのか。
もう、自分でも分からなかった。
少し気持ちを落ち着かせてから、仲間たちが待つ店へ戻った。
帰りの運転は、酒を飲んでいない仲間に任せた。
帰り道も土砂降りの雨だった。
それでも車の中では、
「今日は本当に楽しかったな。」
「あっという間だった。」
そんな話ばかりしていた。
家に着いたのは、深夜一時過ぎだった。
玄関を静かに開けると、家族はみんな寝ていると思っていた。
ところが、長女だけが起きていた。

一人でYouTubeを見ながら、
私の顔を見ると、
「おかえり。」
そう笑ってくれた。
その時になって、
上着をどこかへ忘れてきたことに気付いた。
でも、
そんなことは、どうでもよかった。
長女の、
「おかえり。」
その一言を聞いた瞬間、
今日という一日が、
静かに終わった。
長くて、
懐かしくて、
忘れられない一日だった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
こうした何気ない一日を、
これからも記録として残していきます。
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歩きながら、
少しずつ繋がっていった記録です。
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