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止まっていた時間が、動き出した。

長野市の「色 iro」の外観。止まっていた時間が再び動き出した思い出の場所 暮らしと人生

第一章 家族と休日

7月5日。

家族で長野駅へ向かった。

この日は、

第19回善光寺表参道夏祭り。

善光寺へ続く中央通りは歩行者天国となり、

たくさんの人で賑わっていた。

電車が長野駅へ滑り込む。

ホームへ降りると、

穣は迷うことなく、

藍の手を握った。

ホームと電車の間には、

小さな子どもには少し怖い隙間がある。

「藍ちゃん、ジャンプ。」

穣がそう声を掛けると、

藍は小さく飛び越えた。

その姿を見て、

思わず笑みがこぼれる。

いつの間にか、

穣は妹を守るお兄ちゃんになっていた。

改札へ向かう途中、

織と藍は女性駅員さんを見つけ、

立ち止まって見入っていた。

長野電鉄長野駅で子どもたちが女性駅員さんと笑顔で触れ合う様子
以前、長野電鉄で撮影した一枚です。

穣は少し照れくさそうに振り返ると、

「早く行くぞ。」

そう言って先頭を歩き始めた。

妻は藍と手をつなぎ、

織は私のところへ駆け寄ってくる。

何気ない休日。

何気ない家族の時間。

それなのに、

どこか幸せだった。

長野駅を出ると、

中央通りへ向かって歩き始める。

まだ歩行者天国の手前。

かるかや山近くのローソンへ立ち寄り、

私はハイボールを一本買った。

店先でタバコに火をつけ、

冷えた缶を開ける。

今日は電車だ。

運転する必要もない。

だから、

昼間から飲むハイボールが、

少しだけ特別に感じた。

家族と歩く休日。

それだけで十分だった。

歩行者天国へ入ると、

一気に空気が変わった。

仮装した人たちが歩き、

子どもたちの歓声があちこちから聞こえる。

「見て!」

「あっ!」

「かわいい!」

YouTubeで見ているキャラクターなのだろう。

子どもたちは名前を次々に口にしながら、

あっちへ、

こっちへと走っていく。

善光寺表参道夏祭りでコスプレイヤーの方と記念撮影する織
「お母さん、撮って。」その一言も、夏の思い出。

織は気になるコスプレイヤーの方を見つけると、

「一緒に写真を撮ってもいいですか?」

と声をかけ、

嬉しそうに記念写真を撮ってもらっていた。

気が付けば、

三人とも別々の方向へ。

仮装した人たちに囲まれながら、

普段着の妻と私は、

笑いながら子どもたちを探していた。

それもまた、

祭りの楽しさだった。

中央通りには、

骨董、

雑貨、

くじ、

射的、

体験、

飲食。

さまざまな店が軒を連ねていた。

風が吹くたび、

鉄でできた風鈴が、

澄んだ音を響かせていた。

私は足を止める。

昔から、

こういうものが好きだった。

古い道具。

古い器。

古い建物。

時代を重ねてきたものには、

言葉では言い表せない魅力がある。

子どもたちは、

それぞれお小遣いを握りしめ、

「あれやっていい?」

「あっち見てくる!」

と、

目を輝かせている。

「自分のお金でやるならいいぞ。」

そう言うと、

嬉しそうに駆け出していった。

私はその姿を見送りながら、

ゆっくり歩き始めた。

昭和通りの交差点では、

信号待ちをしながら、

子どもたちは仮装した人たちを見つけるたびに、

また歓声を上げる。

その姿を眺めながら、

私は缶を傾ける。

少しだけ、

ほろ酔い気分になっていた。

子どもたちは、

それぞれ思い思いにイベントを楽しんでいる。

善光寺表参道夏祭りでコナンのコスプレイヤーと記念撮影する織
気になるコスプレイヤーを見つけた織が、自分から声を掛けて撮った一枚。

時間が経ち、

善光寺へ向かう途中のセブンイレブンへ入った。

空になった缶を捨て、

二本目のハイボールを手に取る。

今度は角ハイボール。

プシュッ。

缶を開けた。

その時だった。

「お父さん。」

振り返ると、

穣が立っていた。

「あそこにリッキーいるじゃん。」

一瞬、

何のことか分からなかった。

「ほら。

前に一緒に遊んだリッキー。」

その一言で思い出した。

リッキーがいる店。

その店は、

昔の仲間、

塚本朋樹が営む『色 iro』だった。

善光寺へ向かう道を、

ほんの少しだけ外れた場所。

私は角ハイボールを一口飲み、

穣に笑いかけた。

「じゃあ、

寄ってみるか。」

穣は嬉しそうに駆け出した。

織もその後を追い掛ける。

妻と藍も、

笑いながら歩き始めた。

私も、

家族の後ろ姿を追い掛けた。

自衛隊車両の荷台に座ってイベントを楽しむ穣と織
自衛隊車両の荷台に座り、思い思いの時間を楽しむ穣と織。

あの時はただ、

久しぶりに友人の顔を見に行く。

そのくらいにしか思っていなかった。

あの店の扉の向こうで、

何年もの時間を越えた再会が待っていることを、

この時の私は、

まだ知らなかった。

第二章 智樹との再開

子どもたちは、

私より先に店の中へ入っていった。

勢いよく扉を開ける。

長野市の「iro」外観と色鮮やかな壁画
久しぶりに訪れた「iro」。

その声に気付いた朋樹が、

店の奥から笑顔で顔を出した。

「おー、西野!」

「ジョー来てるじゃん。」

「シーちゃんも一緒か。」

「みんな一緒か?」

「家族みんな一緒だよ。」

そう答えると、

朋樹は笑いながら言った。

「だったら上がってけよ。」

靴を脱ぎ、

店の奥へ入る。

昔と何も変わらない笑顔だった。

私はソファへ腰を下ろした。

「何飲む?」

「ハイボール。」

「はいよ。座って待ってて。」

朋樹は慣れた手つきでハイボールを作り始めた。

その姿を眺めているだけで、

少しずつ肩の力が抜けていく。

グラスを受け取り、

一口飲む。

濃くもなく、

どちらかと言えば、

少し薄く感じるくらいのハイボールだった。

でも、

それが妙にうまかった。

ようやく一息ついた。

タバコに火をつける。

子どもたちは店の中を楽しそうに走り回り、

妻は奥さんと話していた。

店の中には、

穏やかな時間が流れていた。

「久しぶり。」

私はそう言った。

「本当にな。」

朋樹は笑っていた。

しばらく近況を話したあと、

私はハイボールのグラスを見つめながら口を開いた。

「色々と悪かったな。」

理由は話さなかった。

言い訳もしなかった。

何を謝っているのかも、

説明しなかった。

でも、

私の中には、

いろいろな思いが浮かんでいた。

泣きながら電話を掛けたこと。

勝手に仲間を疑ってしまったこと。

誰かにそうしろと言われたわけじゃない。

私が、

勝手にぶれてしまっただけだった。

悪いのは、

誰でもない。

私だった。

だから、

「色々と悪かったな。」

その一言だけを伝えたかった。

朋樹は静かに頷いた。

「俺の方こそ。」

そして、

少し笑いながら続けた。

「まあ、

人はいろいろあるよな。」

その一言で、

十分だった。

それ以上、

何も説明はいらなかった。

長野市「iro」の店内。旧友と再会し、穏やかな時間を過ごした空間。
店主・朋樹が迎えてくれた「iro」の店内。

話題は自然と昔の音楽へ移った。

「西野、

またやろうよ。」

朋樹がそう言った。

昔、

朋樹が作ったトラックに、

私はラップを書いた。

あの頃は、

思ったことを、

言葉にして残すことだけが、

自分の生き方として楽しみのひとつだった。

レコーディングの日。

朋樹の家で過ごした一日。

ヘッドホンをつけ、

同じ曲を何度も何度も聴き続けた。

紙とペンだけを持ち、

言葉を書いては消し、

また書き直す。

納得できるまで、

その繰り返しだった。

朋樹は、

一発録りを求めた。

レコーディングをしたのは、

先祖の仏壇がある和室だった。

犬走りのような細長い場所に、

一本だけマイクが立っていた。

なぜか朋樹は、

王冠をかぶっていた。

今思い返しても、

あの光景だけは、

はっきり覚えている。

張り詰めた空気の中、

私はマイクの前に立った。

一発録り。

息をのむような静けさ。

あの日の緊張感は、

今でも忘れられない。

「またやろうぜ。

ラップぐらい簡単に出来るだろ。」

朋樹はもう一度言った。

私は笑いながら答えた。

「いや、

もうやんねえよ。」

結婚して、

子どもが生まれて、

守るものができた。

休日は、

家族のための時間になった。

音楽から離れて、

もう何年も経っていた。

だから、

その時の私は、

本当にそう思っていた。

1 / 9 – time-began-to-move-again.jpg 添付ファイルの詳細 tomoki-and-jo-at-iro-nagano.jpg 2026年7月10日 122 KB 1200 x 1600 ピクセル 画像を編集 完全に削除する 代替テキスト 画像の目的を説明する方法について、詳しくはこちらをご覧ください(新しいタブで開く)。装飾のみが目的の画像であれば、空欄にしてください。タイトル tomoki-and-jo-at-iro-nagano キャプション 説明 ファイルの URL: https://naganobynature.com/wp-content/uploads/2026/07/tomoki-and-jo-at-iro-nagano.jpg URL をクリップボードにコピー 選択されたメディアアクション
あの頃の笑顔は、今も変わらず心の中にある。

でも、

心のどこかで、

ほんの少しだけ、

昔の自分が顔をのぞかせていた。

その時だった。

店の奥で遊ぶ子どもたちの方を見ながら、

朋樹が笑って言った。

「あ、アキラ。」

一段と大きな笑い声が聞こえる。

穣と識、

そして藍が、

誰かと楽しそうに店の中を走り回っていた。

その姿を見て、

私は入口へ目を向けた。

「アキラ来たよ。」

「おい、アキラ。」

思わず声が出た。

嬉しかった。

でも、

それだけじゃなかった。

いろいろな思いが、

一瞬で胸をよぎる。

第三章 アキラとの再会

アキラは、

子どもたちと一緒に笑いながら、

追いかけっこをしていた。

その姿を見た瞬間、

張り詰めていたものが、

少しだけ緩んだ。

嬉しかった。

でも、

それだけじゃなかった。

正直に言えば、

複雑だった。

本当に会えるのか。

どんな顔をして会えばいい。

昔のことを、

どう思っているんだろう。

そんなことばかり、

勝手に考えていた。

勘ぐっていたのは、

私の方だった。

アキラは、

昔と何も変わらない笑顔で、

私のところへ歩いてきた。

その瞬間、

会う前まで勝手に考えていたことは、

何ひとつ意味がなかった。

「おう、久しぶり。」

私がそう声を掛けると、

アキラは笑いながら答えた。

「久しぶりじゃん。」

自然と手を差し出す。

そして、

そのまま自然に抱き合った。

何年ぶりだっただろう。

長い時間が過ぎていたはずなのに、

不思議なくらい、

昨日まで一緒にいたようだった。

胸が熱くなる。

鳥肌が立った。

その様子を見届けていた朋樹が、

安心したように笑いながら言った。

「お前ら最高だよ。」

その一言が、

胸に染みた。

でも──

その時の気持ちを一番よく表す言葉は、

「嬉しい。」

でも、

「懐かしい。」

でもなかった。

「ほっとした。」

それが、

私の本当の気持ちだった。

それ以上の言葉は、

見つからなかった。

その時、

アキラは穣を見ながら言った。

「穣、

めちゃくちゃいい子じゃん。」

その一言が、

自分のことのように嬉しかった。

私はアキラへ声を掛けた。

「親父さん、元気か?」

「元気だよ。」

アキラは笑って答えた。

私は静かに頷いた。

それだけで十分だった。

お互いの近況を少しだけ話した。

家族のこと。

今の暮らしのこと。

ほんの少しだけ言葉を交わす。

昔話に花を咲かせるわけでもない。

長い話をするわけでもない。

ただ、

お互いが元気でいることを確かめ合う。

そんな時間だった。

やがて、

朋樹たちは次のイベントへ向かう時間になった。

「一緒に行こうぜ。」

そう誘ってくれた。

私も行こうかと思った。

でも、

妻が静かに言った。

「せっかくお祭りに来たんだから、

子どもたちともう少し回ろう。」

私は頷いた。

「そうだな。」

今日は、

家族との時間を大切にしよう。

そう思った。

店を出ると、

朋樹は笑いながら、

「また連絡しろよ。」

そう言って送り出してくれた。

朋樹の奥さんも笑顔で見送ってくれた。

「恵里ちゃん、またね。」

その優しい声が、

とても嬉しかった。

iro店内で久しぶりの再会を果たした仲間たち
久しぶりの再会に、自然と笑顔がこぼれた。

みんな、一緒に外に出た。

「またね。」

「またな。」

「また来いよ。」

「はいよ。」

短い言葉だった。

でも、

それだけで十分だった。

店を離れ、

家族と一緒に夏祭りの賑わいの中へ戻る。

歩きながら、

私は何度も心の中で繰り返していた。

本当は、

会いたかったんだ。

会えただけで、

十分だった。

心の奥に、

ずっと引っ掛かっていたものが、

静かにほどけていった。

あの日、

心のどこかで止まっていた時間が、

少しだけ、

動き出した気がした。

そして、

心の底から、

ほっとした。

第四章 自分を見つめ直す

私は、

そんなに思うことがあるのなら、

もっとみんなをつなぎ合わせて、

一緒に遊べばよかった。

もっと気にかけてあげればよかった。

もっと早く気づいてあげられなくて、

ごめん。

私自身、

知らないうちに、

人の話へ、

自分の景色を重ね、

話を大きくしてしまったのかもしれない。

私自身が、弱かった。

ごめん。

おせっかいなことをしておきながら、

私は、

自分の目で見て、

自分の耳で聞いて、

自分の心で感じて、

確かめようとしなかった。

それが、事実だった。

ごめん。

あの人には、

あの人の見えていた景色があった。

私には、

私の見えていた景色があった。

そして、

あの頃の私には、

見えていなかった景色もあった。

人には、

それぞれ見えている景色がある。

だから、

同じ出来事でも、

受け取り方は違う。

私は、

あの日、

ようやくそのことを知った。

松仙堂の和菓子と羊羹、善光寺焼でいただく温かいお茶
答えは、他所様ではなかった。ずっと、自分だった。本当に、ごめん。

第五章 ありがとう。

あの日の出来事を、

今では、

感謝している。

昔の友人と、

また会うようになった。

最初は、

本当に嬉しかった。

昔話をして、

笑って、

知らない時間の出来事を聞く。

離れていた時間を埋めるような、

そんな時間だった。

でも、

何度か会ううちに、

話題は少しずつ変わっていった。

昔の仲間。

共通の友人。

懐かしい名前が出てくる。

最初は、

「そうなんだ。」

と聞いていた。

知らない時間の出来事だから、

どこかラジオを聞いているような感覚だった。

でも、

聞けば聞くほど、

心は少しずつ揺れ始めた。

昔、

一緒に笑い、

一緒に遊んだ仲間たちのことを思い出す。

夕日に照らされた木々と観音像。過去を受け入れ、感謝とともに新しい一歩を踏み出す情景。
遠回りしたから、今がある。

「あの人がそんなことを言っていた。」

「あの時はこうだった。」

その話を聞くたびに、

私は勝手に苦しくなっていった。

昔から、

私は人の言葉を信じやすい。

それが良いことなのか、

悪いことなのかは分からない。

でも、

その時も、

私はその言葉を、

まっすぐ受け止めてしまった。

気が付けば、

泣きながら昔の友人へ電話を掛けていた。

「本当なのか。」

ただ、

それだけを確かめたかった。

突然、

泣きながら電話を受けた友人は、

きっと戸惑っただろう。

今思えば、

本当に申し訳ないことをした。

それから私は、

その友人と会うことをやめた。

誰が悪いとか、

そんな話ではない。

私には、

私の弱さがあった。

人の言葉に揺れ、

勝手に思い込み、

勝手に苦しくなってしまう。

それもまた、

私だった。

だから、

少し距離を置くことにした。

その時間で、

家族と過ごした。

子どもたちと笑った。

妻と出掛けた。

記事を書いた。

自分が本当にやりたいことへ、

少しずつ時間を使うようになった。

そして、

ある日。

私は、

昔の仲間に会った。

握手を交わし、

笑い合い、

「また来いよ。」

そう言ってもらえた。

その瞬間、

気付いた。

あの時、

私にいろいろな話をしてくれた友人も、

きっと苦しかったんだ。

あの人には、

あの人の見えていた景色があった。

私には、

私の見えていた景色があった。

どちらが正しかった、

という話ではない。

ただ、

見えていた景色が違っていただけだった。

だから、

私はもう責める気持ちはない。

むしろ、

感謝している。

あの出来事がなければ、

私は自分自身を見つめ直すことも、

昔の仲間に会いに行くことも、

なかったかもしれない。

穴観音温泉へ向かう迂回路の先に続く山道。
遠回りしたからこそ、見える景色がある。

人生は、

遠回りすることがある。

誤解もある。

すれ違いもある。

でも、

その遠回りにも、

きっと意味がある。

今なら、

そう思える。

だから私は、

今日も前を向いて歩いていく。

過去を否定することなく、

誰かを責めることもなく、

これからの自分を信じて。

夕日に照らされた高速道路。未来へ向かって続く一本道。
前に行くしかねえだろ。

そして、

あの日の出来事に、

静かにこう伝えたい。

ありがとう。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

これからも、私が見てきたこと、感じたこと。

そして、生きてきた証を言葉として残していきます。

もし、何か一つでも心に残るものがあれば、

👣足あとを残していただけると励みになります。


このブログは、
迷いながらも歩き続ける、
私の「みちしるべ」です。
───

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